「子供は誰もが真っ白なキャンバス。そこに、どんな世界が描かれていくのか。生まれてからの環境や与えてあげた刺激、見せてあげたものによって決まっていく。親としては、できるだけ清くて自然で美しいものをたくさんインプットしてあげたい」。
以前は何となく、こんなふうに思っていました。
この本に出会うまでは。
『センス・オブ・ワンダー』は、育児書でも教育本でもない、どちらかというと小さな物語のような本です。著者レイチェル・カーソンが、幼い甥と海や森で遊ぶ姿を見せてくれながら、「知る」ことよりも「感じる」ことの方がどれだけ大事かを教えてくれます。
そして私は、こうとらえるようになりました。
「子供の世界は、大人はもう忘れてしまった素晴しいもので最初はいっぱいに詰まっていて、それを日々少しずつ失っていってしまっているのかもしれない」 と。
ひょっとしたら、
元来、子供の内側に広がる世界は、たくさんの生物が住み、色とりどりの花が咲き、澄んだ泉の湧く豊かで美しいジャングルだったのに、それを私たち大人が、たとえば「葉っぱなんていいから早く車に乗りなさい!」「虫なんて汚い!触らないで!」と無理に手をひっぱったり、TVを見せたり、派手なおもちゃや菓子を与えたり、などという形で、その世界を大きな重機で壊していっているんじゃないだろうか。木々をなぎたおし、更地にし、区画整理し、皆と似たようなビル群を建てる。いつしか子供は、自然に感動するセンスを失って、一般常識と周りの空気にうまく合わせる“大人”になっていくんじゃないか。
そんなふうにさえ思ってしまいました。
この本を閉じた瞬間、わが子の手を取って外へ駆け出したくなります。一緒に叫びながら雨に打たれたり、蟻の行進や葉の模様を飽きるまで眺めたりしたくなります。そのときの子供の横顔に、瞳の奥の煌めきに、その子の中の美しいジャングルを見つけ、逆に大人である私たちが、何かをほんの少し取り戻せるのでしょう。それが、「センス・オブ・ワンダー」なんですきっと。