母たちの明日の糧になるお話を伺うインタビューコーナー。第三回は、糸島市の認可外保育園「わくわく子どもえん」のえん長、川口正人さんです。
園庭はなく、海や山で思い切り遊ぶ子どもたち。お昼ご飯は自分で盛って残さない。見学者は1年で100人以上、海外からの見学も多いといいます。
私、hahaha!編集長・本間は、2人の息子を2週間入園させていただきながら、たっぷりお話を伺いました。えんの日々の様子や、私自身の学びも交えつつお届けします。
※今回の訪問のきっかけになった1日体験記。ここにも私の衝撃と目から鱗のお話満載です。ぜひ。

子ども同士の喧嘩はどうすべき?
−−こちらで学んだのは、子どもたちは日々の中で、細かな感情の機微を通じて自分を知れるんだということです。これまで私は、息子の怒りや悔しさなどを、遮らずにちゃんと出させてあげられてたかなと考えさせられました。
暮らしの中で、遊びながら、さまざまな感情を出し合って、人を知り、自分を知る。これがベースです。もちろん自己主張もあるし、喧嘩もあります。
子ども同士の喧嘩が始まったら、まず見守ります。どこまでやるかなーって。
うちのえんでは、喧嘩はいいけど、武器は持たない、後ろから攻撃しない、応援しない。それさえ守れば、思い切りやりなという方針。
ごめんなさいを言う必要はないんよ。「ごめん」はもう、やっちゃったときに、いろんな顔して表現してる。そこに「言いなさい!」って追い討ちをかける必要はない。
大人だって嫌だよね「あれしたでしょ、悪いでしょ、はいごめんなさいは?」って言われたら。でも言われ続けたら麻痺して慣れてしまうよね。だめなのは、先にごめんなさいを連発して、いいよと言わせようとすること。それじゃあ、謝れば許される世界を作ってしまう。
喧嘩も、その場だけのことでないかもしれないよね。たとえ感情的な喧嘩でも理由がある。
家で嫌なことがあったかもしれない。前から喧嘩していたかもしれない。ここではみんな寄り添おうとしてくれる。「どうしたと?」と声かけたり、うちら大人に「今日○○ちゃんはこんなことがあったからだよ」と伝えてくれたりする。
昨日も知ってる、家での様子も聞いてる。しょんぼりしてたら、無理に元気だしてと言われない。「今日はしょんぼりなんだよね」と言ってもらえる。辛い気持ちをみんなわかってくれたんだってほっとする。まわりが寄り添ってくれると、子どもはそのままで居られるんだよね。

世間の目も、正直 気になる…
−−でも公園で衝突が起こったときや、他の人と一緒の場で迷惑をかけたとき、やっぱり自分の子に「ごめんなさいは?」って促してしまいそう……。自分は「このくらい大したことない」と思っても、相手がどういう考えか分からなくて怖いのかもしれません。
子どもって、思ってすぐ言葉が出てこないかも。代わりにお母さんが「ごめんねー」って言ってあげてもいいんじゃない? 相手の気持ちは相手のものだから、怒られたら怒られただけど、もしかしたら同じ考え方のお母さんで友達になれるチャンスかもしれんよ?
もっと楽しむためには、自分が囚われている「こうしなきゃ」「こんなことしちゃダメ」って常識の檻を取っ払うことです。
私のとこに生まれてくれた!ってその思いだけで、社会がどう言おうと、誰にどう言われようと、私はこの子と生きていくって覚悟でいい。
電車乗ったら舌打ちする奴がいる? そんなの萎縮する必要ない。「あんたの都合のいい子じゃないかもしれないけど、あたしの大事な子や!ふざけんな!」って思っといたらいい。
うちは子ども6人おるけど、3年前に法事で親戚が揃ったとき「どの子が優秀ね?」と言われて。灰皿投げようかと思ったけどこらえて、思いっきり笑顔で言ってやった。「全・員・優秀ですけど?!」
世間に対してどう答えたらいいかなんて、どうでもいい。
親が清廉潔白である必要はないんよ。聖人じゃない。好きも嫌いもある、喧嘩もする。でも一緒にいたいって。それが親やん、家族やん。


つい正解を求めてしまう?
−−自分らしく等身大で、と思いつつ「どうしたら良い子育てができるのか」と悩み、育児本や、ネットの記事に釘付けになったり。やり直しのきかない幼少期、私の育て方次第でこの子の将来が変わってくるかもしれないって、気負ってしまってるのかもしれません。
そうね。いわゆるキャリアウーマンだったり、優秀で頑張ってきた人が陥りがちなのが「ダイレクトに子ども本人を見れない」ということだと思うよ。
苦労して授かった子だから、子どもに対する愛情は深い。しかしそれが「知的愛情」に変わっていって、数値化やマニュアル化したくなっちゃう。「この歳で何ができたからすごい」「こういう部分がこうだから好き」って。
自分が社会や組織の中で身につけてきた、論理的な考え方やシステムが念頭に置かれて、子どもをそのまんまで見れない人が多いような気がする。
逆に、愛情をかけていく方向が、過保護・過干渉になってしまう人もいる。やりすぎ。言い過ぎ。
依存や甘えが悪いわけではないけど、結果的に、自分で考えて行動できない人間に育ててしまうという、自分がやってきたことの反対のことをして後で悩んでいる。
虐待や、愛のない子育ては不正解だけど、「正解の子育て」なんかないよね。いろんな父母がいていろんな家庭があって、違うから面白いのに、正解を探そうとする。ならば「あなたのしたい子育て」って何か、追求してみたら?と思うよ。


叱り方って難しい?
−−振り返れば、社会に出ていろいろ分かったつもりでいたのに、親になっていきなり人間力勝負になって困惑してしまった部分があるかもしれません。たとえば、叱り方にも迷います……。
よく子育て相談を受けますよ。「どういうとき叱ったらいいですか」って。
たとえば、感情的に怒る自分が嫌だから叱れない。叱ったことでこの子がよくない方向に行ったら嫌だから言い方に迷う。ひとこと「叱り方がわからない」の中にも、たくさんの「わたしの想い」があるんよね。
答えはない。怒りたいときに怒ってください。母ちゃんは感情のままに怒っていいと、僕は思ってる。
いろんなもの抱えてる、それでいい。その子の未来のためにたくさん考えて、今の感情があるわけ。一生懸命その子のこと考えてごはん作ったのに、食べない、投げる。そんなときは「どんな気持ちでこれ作ったと思ってるー!」って怒っていい。
一方で、お父さんは家庭での秩序・ルールを決めなきゃいけないと思ってます。
母ちゃんには問わないけど、父ちゃんには問う。どういうときに叱りますか。例えばうちは、ちゃぶ台に乗ってもいい。ただ食べもの飲みものが乗った瞬間ダメ。
父ちゃんに一番怖い役割をしっかりやってもらう。鬼のアプリより「お父さんにいうよ」と言ったほうがいい。
なんでって、母は本能で子どもが好きだけど、父は理性。だから母ちゃんは感情で怒っていい。父ちゃんはルール、規律。
ちょっと話が逸れるけど、男って、子ども作るの一瞬で終わりやん。でも女の人はそれからずーっと、お腹の中で育て、授乳して。なにか子どもに問題があったとき、母は「わたしのせいだ」って真っ先に思うけど、父は「お前の育て方が悪い」ってしらっと言うやろ。本能で思えない。理論でしか考えられん。
僕はお父さんの気持ちよくわかるよ。奥さんに辛いとか文句とか言われても、正直「俺にどうしろっていうんだ」って思う。でも「おいで」って言えばいいんよね。お母さんがほしいのは、方法論でも正解でもなくて「大変だったねー」「ありがとうねー!」。ぎゅーって抱きしめればほっとできたりするんよね。でも男って言わんのよねーー!ダメよねーー!

その押しつけは愛?自己満足?
−−そうですね。怒りが溢れるときって往々にして、その子のために「良かれと思って」した努力が、拒絶されたり報われなかったときかもしれません。
そう、一生懸命作ったごはんを食べないのを怒ってもいい。
ただね、気をつけてほしいのは、「納豆を食べさせたい」は私の勝手な思いだってこと。
この子のTシャツどうして買った? 自分の趣味でしょ。どうしてこの子にその名前つけた? 所詮は私たち親のわがまま。自分の趣味を押し付けているんよ。
可愛い我が子のために、できるだけ美味しいもの、できるだけ素敵なものをあげたい。それが親の当たり前の感情。すごく素敵な押し付けなの。
でも覚えておきましょう。美味しい!は私の美味しい。素敵!は私の素敵。この子にも同じく思わせようとするのは無駄。ならば「お母さんこの味すき!」「夕焼けきれい!」でいい。それを、おいしかろー!?きれいかろー!?とぐいぐい押し付けちゃだめよ。
つわりから、胎動、陣痛から、腕に抱いて、「生まれてきた喜び」が、いつのまにか、自分の理想に自分の子がそぐわないときに、喜びの分だけ苦しみに変わってしまってる。私とこの子は別人格。「私の趣味をなぜあなたは受け入れない!」って怒るのはやめよう。
−−なるほど。全然言うこと聞かない!って、子に視点が向いてるけど、実は「自分の理想」の方を修正すべき場合もあるかもしれないですね。
大事なのは、「雨が降ってきたよ、傘さしなさい」と言ったとき、「雨降ってきた」と「傘さしなさい」の間にある気持ちを、お母さん自身がちゃんと知ってるかどうか。
あなたが風邪ひいて苦しんだら母さん悲しいーって想いなのか、会社休まなくちゃいけないじゃないの!って都合なのか、はたまた濡れた子を歩かせるのが恥ずかしいって世間体なのか。そこの部分で、子どもへの伝わり方は変わります。伝わるのは、あなたの本音だけです。
悩んでいる人は、自問自答してみてほしい。どうして今そう思ったの? どうして私は傘さしてほしいの?と。自分の都合のいいように育てたいと思っていないかな? って。


▶︎②「遊んで食べて寝て、思いっきりやる。それだけでいい。」へ続きます。「食事」「健康」など具体的なテーマで質問しました。