祖母から自分の母までは、伝わっているのに、母から自分、のところで途切れてしまっていること。日本人がずーーっと受け継いできたのに、もう自分の子には伝わらないこと。実はたくさんあるんじゃないでしょうか。
その一つ、日本の四季折々の風習・習わしを学んでいきたいと思います。「時代に合わない」と無視しても全然いいんだけどなんだかとっても大事なことなんじゃないかと胸騒ぎがするから。
<教えてくれた人:日本の文化・歳時記研究家 広田 千悦子さん>
お盆は、亡くなった人や祖先の霊が家に帰ってくるのを迎える日。通常は8月13日から16日で、7月に行う地域もあります。
できれば家族親族で集まり、お墓参りに行きたいところですが、忙しくてお盆に実家に帰れないという人も多いですよね。ぜひおうちで、できる限りでいいので行ってみましょう。
お盆は、ロマンチックでした。
部屋の中に盆棚を作り、8月13日の夕方に迎え火を炊いて、ご先祖様を家に迎え入れます。大きな棚をしつらえるのが難しくても、ベランダや窓辺、玄関の一画にちょっとした台を置いたり、トレーなどで飾りスペースをつくるだけでもいいと思います。
本来は法要(僧侶を呼んでお経を読んでもらう)をしますが、家族でご先祖様のことを話題にするだけでも供養になります。
盆棚には、桔梗や萩、ほおずきなどを生けて、お線香を焚き、きゅうりやなすに足をつけた「精霊馬(しょうりょううま)」を飾ります。
精霊馬は、ご先祖の霊が訪ねてくるための乗り物で、行きと帰りで別。
来る時はキュウリの馬に乗って少しでも早く、帰る時は名残惜しいのでナスの牛でゆっくりお帰りくださいと気持ちを込めるのです。簡単にできるものなので、親子で作ると楽しいですね。
ほおずきは、霊が迷わないよう明るく照らすためランプ。他にも、甘い物やお酒、お素麺など、ご先祖が喜びそうなものを置いてお迎えします。
そして最終日の16日夕方、送り火を灯してお帰りいただきます。京都の五山の送り火や、川に灯篭を流すのも、送り火の風習です。
迎え火、送り火ともに、家庭では、玄関で「おがら(麻の茎)」を燃やすのが習わしですが、キャンドルを灯すのだっていいです。
火を焚くことといい、目にみえない霊の乗り物を準備することといい、なんだか不思議でロマンチックじゃないですか。
お線香の香りや、生けた花も、スペシャルな気分になって、子供もわくわくしそうです。ちなみにおがらは、お盆の時期になると八百屋さんやスーパーで、気づいていないだけで、実は結構売ってます。

習わしに関するものを一緒に手作りすると、特別感があってわくわく。 親子ともに素敵な思い出になりそうです。
秋分の日は、おはぎ。春分の日は、ぼたもち。
お盆の約1か月後、9月23日の秋分の日(二十四節気)も、ご先祖の霊を供養する日。
この日の前後7日間を「秋のお彼岸」といい、おはぎを作って、法要やお墓参りをします。
秋分の日で昼夜の長さはほぼ同じになり、そこからは夜の時間がだんだん長くなります。
気持ちのいい「秋の夜長」には、影絵をして遊んだり、お話を読み聞かせたり、虫の声を聞いたり、そんな過ごし方もいいですね。
ちなみに、他にもご先祖様を供養する日は、春のお彼岸(春分の日:3月20日頃の前後3日)があります。
このとき作るのは、「ぼたもち」。
秋の「おはぎ」と、物は一緒でも、呼び名が違う。それぞれ季節の草花の「萩」と「牡丹」からきていると言われます。また、つぶあんがおはぎ、こしあんがぼたもちという所もあるそうです。
空を見上げて、ご先祖のことを話そう。
お墓は遠い田舎にあるのに、都会のマンションの一室に、ご先祖様はわざわざ来てくださるのだろうか……。と思いきや、大丈夫。「祖霊(それい)」が来てくれるからだそうです。
祖霊とは、亡くなった方々の魂で、山の上の方に集まって、皆でこちらを見守っているのだとか。つまりみんなの先祖がいっしょくたでみんなの先祖、というような概念です。
まさに、お墓になんか眠っていなくて、千の風になっているということでしょうか。霊とかご先祖様とか言うと、遠くてちょっと怖いけど、山の上から見守ってくれてる魂と考えると何だかありがたくて嬉しい気持ちになりませんか。
こんな話を、もうお話ができる子とは、空を見上げながらしてみてもいいですよね。質問されても「どうしてだろうね」って一緒に考えながら。
そうしてご先祖の話をしながら、命のバトンがずーっとつながって、お母さんに来て、あなたが生まれたのよという話ができたり、あなたもいつか子供をもうけてって未来の話をしたり、ただぎゅーっと抱きしめて空を見つめるだけでもいい。素敵な時間になると思うんです。
お話を聞いていてふと、池川明医師の『ママのおなかをえらんできたよ』という本を思い出しました。数多くの子供たちの「生まれる前の記憶」を調査した結果、ほぼ共通して、「雲の上でお母さんを見ていて、あの人がいいと決めて降りてきた」のだとか。
もしかしたら、祖霊って、亡くなった方が新しく赤ちゃんに生まれ変わる前の
魂たちだったりして。
いずれにせよ、「ご先祖様への感謝」「いのちのバトン」「生まれ変わる魂」…… 日常生活ではなかなかたどり着けない思考ですよね。
夜空を見上げて、カヤの中で、花火を見つめながら、虫の声を聞きながら、
親子で目に見えない不思議な世界の話をする。
夏から秋は、そんなロマンチックな思い出を親子で刻むのもいいですよね。
(写真: 広田 行正)
日本の文化・歳時記研究家。季節の愉しみ方から、縁起物まで、温かな絵と文で綴る作家であり、ワークショップ講師も数多く手掛ける。著書はロングセラーの『おうちで楽しむにほんの行事』、夫であり写真家の広田行正氏との共著『湘南ちゃぶ台ライフ』をはじめ、25冊を超える。最新刊は『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)。東京新聞でコラム「くらし歳時記」連載10年目。