~祖母から自分の母までは伝わっているのに、母から自分、のところで途切れてしまっていること。
日本人がずーっと受け継いできたのに、もう自分の子には伝わらないこと。
実は少なからずあるんじゃないでしょうか。
その一つ、日本の四季折々の習わしを学んでいきたいと思います。
「時代にあわない」と無視しても全然いいんだけど、なんだかとっても大事なことなんじゃないかと胸騒ぎがするから。~
<教えてくれた人:日本の行事・歳時記研究家 広田 千悦子さん>
あけまして、おめでとうございます。
今年のお正月休みは短めで、普段なかなかできないハハたちの骨休めも若干慌ただしいものになってしまいそう(でもゆっくりしましょうね!)。
実は本来、お正月はなんと約2か月間もあるものだって、知ってました?
その期間の中には、身を清めてお正月の神様をお迎えし、おもてなしをしてお見送りをするための、いくつもの習わしがあります。
まずはそこから見てみましょう。
お正月って2か月間?習わしいろいろ。
まずスタートは12月8日、年神様を迎えるために正月行事の準備を始める「事始め」。
現代の大掃除にあたるのが12月13日の「すすはらい」。
それから年末に(29日と31日は避けて)行う「餅つき」や「正月飾り」、
年越し蕎麦をいただく「大晦日」、「元旦」、3日までが「三が日」。
七草粥を食べる1月7日までを「松の内」と呼び、この日が年賀状と寒中見舞いの境です。松の内が過ぎたら(または11日に)鏡餅を下げていただきます。
1月15日(地方によっては20日)の「小正月」には、花餅を飾り、正月飾りを燃やす「お炊き上げ」(どんと焼き)をします。
そして1月20日は神様がお帰りになる「二十日正月」、
2月8日がお正月の神事も後片付けもすべて終える「事納め」です。
左に綯って福を呼ぶ、しめ縄飾り。
日本の神様は、「来訪神(らいほうしん)」と言って、一所にずっと居るというより「やってくる」「訪れる」神様だという考え方があります。(参考:お盆の祖霊の話)
お正月は、「年神様(としがみさま)」をお迎えし家に招き入れることが、さまざまな習わしのベースになります。
ただ、来訪神には色んな神様がいて、災いをもたらす「禍神(まががみ)」などもうようよいる。そこで、身を清めたり、ここからは入らないでと結界を張ったりすることも同時に行うようにするのです。
家の玄関や車のバンパーなどに飾る「しめ縄飾り」は、禍神などを退け、ここが神聖な場所であると示す印です。
もともとは藁(わら)を使って、各家庭で手作りしました。
日本全国に、形も大きさもさまざまなしめ縄飾りがありますが、ほとんどのものに共通しているのが、藁を左方向に回しながら綯(な)っていく「左綯い」になっていること。
これは、右というのが通常時、つまり俗を表すのに対し、左は特別なとき、聖なるものを表わしているからです。
作る際は、もちろん一人で綯っていく方法もありますが、このように藁の束を2つに分けて、それぞれ右にねじりながら、左へ左へとくるくる編んでいく方法も。
多くの人は右手が利き手ですから、左綯いの動きは、外から自分に向かっていて、福を招き入れるという意味を持つのです。
綯い終わったしめ縄に飾り付けるのは、縁起がよい、あるいは邪気を祓うとされる草花です。
門松にも使う松、椿など、生命力を象徴した常緑の葉や、唐辛子や南天など魔除けの赤いもの(南天は難を転じるという意味でも縁起がよいとされる)。
他にも、次の葉が出てから古い葉が落ちることから子孫繁栄をイメージさせるユズリハや、裏表がない心を表すウラジロの葉も使われます。
ちなみに、しめ縄などお正月飾りの片づけ方は、本来なら「お炊き上げ」(どんと焼き)の際に炎の中に入れて焼くのがよいですが(煙に乗って神様がお帰りになる)、近所でそのような行事がなければ、新聞紙の上に置き、塩をまいてから包み、燃えるごみの日に出しましょう。
おせち料理で福をいただく。
さてお正月に大人ハハたちが、分かっているようで自信がないものといえば…「おせち料理」。
母親に任せきりだったり、お重ごと買ってきたり、何となくやり過ごしてきたという人も多いのではないでしょうか。
おせち料理はもともと、日持ちするお料理が基本でした。その意味は、年神様をお迎えするのに静かに過ごしていただくためであったり、かまどの神様に休んでいただくため、神聖な火を使うのを慎むため、そして年中忙しい女性たちが年末年始に少しでも休めるためでもありました。
とはいえ何十種もあるというおせち料理の数々、どれを準備したらいいやら分からなくなってしまいますよね。
実は、最低この三品とお餅さえ揃えばお正月が迎えられる、とされる「三つ肴(みつざかな)」というものがあります。
関東では数の子・田作り・黒豆の三種。関西では黒豆の代わりにたたきごぼうの三種です。
ここに、紅白かまぼこ、伊達巻き、栗きんとんなど、「口取り」と言われるお祝いならではの肴を加えられるとよいですね。さらに余力があれば、海の幸の焼き物と、酢の物、山の幸の煮物を揃えます。
<主な食材に込められた、おめでたい意味>
・数の子… 卵が多いので、子孫繁栄。ニシンの子なので「二親健在」の願いも。
・田作り… 片口イワシを肥料にした田畑が豊作だったことから、五穀豊穣祈願。「五万米(ごまめ)」とも呼ばれる。
・黒豆… 邪気払いの黒と、黒く日焼けするほどまめに勤勉に働けるように。
・たたきごぼう… ごぼうのように深く根を張り、家が安泰で続くよう。
・紅白かまぼこ… 半円形は日の出を象徴。おめでたい紅白で、紅は魔除け、白は神聖を表す。
・伊達巻… 華やかさを表す伊達。巻き物に似ているので学問や習い事の成就祈願も。
・昆布巻… 「喜ぶ」にかけた縁起もの。
・栗きんとん… 栗は「勝ち栗」と呼ばれ、縁起がいい。金色で金運を呼びこむ。
・鯛… 「めでたい」にかけて。恵比寿様が持つハレの日の魚。
・ぶり… 出世魚のぶりにちなんで立身出世を願う。
・海老… 腰が曲がるまで長生きできるように。
・紅白なます… 色がおめでたく、形は水引を連想させる縁起もの。
・筑前煮… 穴から将来の見通しがきく「蓮根」や、小芋をたくさんつける子孫繁栄の「里芋」、大きな芽が出ておめでたい「くわい」など、根を張る根菜を使った煮物で末永い幸せを祈る。
ちなみに、おせち料理をいただく「祝い箸」は両端が細くなっています。自分が食べる方と、お料理を取り分ける方……と思われがちですが、実は、反対側は神様用。おせち料理は年神様と一緒に食事をするものだからです。元旦に使った祝い箸は各自で洗い、松の内(1月7日)まで同じものを使うのが習わしです。
手づくりのぜんざいでホッとしよう。
おせち料理をすべて家で手作りするなんて家庭は、今や珍しくなりました。
賢く取り入れたい既製品のお惣菜はもちろん便利ですが、食べ続けるとちょっと身体が疲れてくるような、優しいものを食べたくなるような感覚、ありませんか。
そこでお正月、ハハであり嫁であり娘である私たちが、家族のためにいっちょ腕まくり。小豆をコトコト煮て、ぜんざいを作ってみましょう。
白砂糖ではなく黒糖を控えめに効かせたぜんざいは、ほんのり優しく、でもこっくり旨味があって、子供もご年配も喜びます。
善哉(ぜんざい)の由来は、仏教語の「善き哉(よきかな)」。
「すばらしい」を意味するサンスクリット語「sadhuサードゥ」の漢訳で、相手を褒めたたえる言葉。まさにおめでたいお正月にぴったりです。
ちなみに、「ぜんざい」と「おしるこ」の違いは、汁気の多さによるとか、つぶあんこしあんの違いだとか、関東関西だとか所説ありますが、境界線はあいまいなようです。
<家族皆が喜ぶ 黒糖ぜんざいの作り方>
■材料(5人分)
小豆250g
黒糖100g
塩ふたつまみ
白玉粉 または 餅
■作り方
・小豆はまず「しぶきり」をする(=ひたひたの水に入れて沸騰させ、弱火にして3分ゆでたらザルにあける)。※このとき切ったゆで汁は、「あずき茶」としていただいても。母の疲れやむくみを取ってくれる、デトックス効果がある。
・しぶきりした小豆と1リットルの水を鍋に入れ、沸騰させたあと弱火にして50分~1時間煮る
・白玉だんごを入れる場合は、白玉粉をぬるま湯でまとめてだんごにして、網などで焼き色をつけておく。餅を入れる場合は、焼いて好みの大きさに切っておく。
・小豆の鍋に黒糖を3回に分けて入れる。好みのかたさ加減まで混ぜながら煮る。
・お椀に盛る。
お好みで、栗の甘露煮を入れると華やかでお正月らしい!
その他、生クリームを入れたり、コーヒーの中に混ぜたりしても美味しい。
一度作れば、片目をつぶっても完成しちゃう簡単さ。
お正月以外でも、自分が「あ、あれ食べたい!」と思い立って小豆を煮はじめてしまうほど、やみつきの美味しさです。
新しい一年のはじまりのお正月。
神聖な気持ちで神様をお迎えしたり、ちょっと襟を正してご挨拶したり、久々の再会を楽しんだり、お年玉を渡して成長を喜んだり、のんびりぐうたら甘えさせてもらったり。こんなとき、実感しますよね「家族っていいな!」
そう。家族みんなで笑顔で過ごすこと、それが何よりのご馳走でありご褒美であり、幸せですよね。
みなさん、どうぞどうぞ健康でよい一年に!
(写真: 広田 行正)
広田 千悦子 ひろたちえこ
日本の文化・歳時記研究家。季節の愉しみ方から縁起物まで、温かな絵と文で綴る作家であり、ワークショップ講師も数多く手掛ける。著書はロングセラーの『おうちで楽しむにほんの行事』、夫であり写真家の広田行正氏との共著『湘南ちゃぶ台ライフ』をはじめ、25冊を超える。最新刊は『鳩居堂の歳時記』。東京新聞のコラム「くらし歳時記」は連載10年目。公式HP