~祖母から自分の母までは伝わっているのに、母から自分、のところで途切れてしまっていること。
日本人がずーっと受け継いできたのに、もう自分の子には伝わらないこと。
実は少なからずあるんじゃないでしょうか。
その一つ、日本の四季折々の習わしを学んでいきたいと思います。
「時代にあわない」と無視しても全然いいんだけど、なんだかとっても大事なことなんじゃないかと胸騒ぎがするから。~
<教えてくれた人:日本の行事・歳時記研究家 広田 千悦子さん>
皆さんは今年、七五三のお祝いをしましたか?
七五三というと、母たちは晴れ着の準備やら写真館の予約で大忙しですが、肝心なお祝いの意味はというと……「なんだっけ?」だったりして。
今回は、七五三の習わしと、それに関連した人生の節目のお話を少し深掘って学んでみます。
七五三は、一体なんのため?
七五三は、今日まで無事に育ったことをお祝いし、これからの成長をあらためて祈る機会です。
昔は乳幼児の死亡率が高く、「7歳までは神の子」という言われ方もあったほど。3歳、5歳、7歳まで無事に生きられたら、家族としては本当に大きな喜びだったことでしょう。
また、その年齢を迎えた本人にも、立派な晴れ着を着せて「少しづつ、大人になっていくんだよ」という自覚を持たせ、新たな道を歩くための節目でもあります。
男の子は5歳(3歳にも行ってよい)、女の子は3歳と7歳の11月15日(それに近い週末)に晴れ着を着て神社に行き、ご祈祷を受けるかお参りをして無事成長したことを感謝し、これからの幸福を祈ります。
もともとは宮中や公家の行事でしたが、江戸時代には一般的に行われるようになりました。
3歳の髪置き(かみおき)の儀、5歳の袴着(はかまぎ)の儀、7歳の帯解き(おびとき)の儀の儀式が由来となっています。
・髪置きの儀: 平安時代、赤子は男女とも髪を剃り、3歳から髪を伸ばす風習があったことから。赤ちゃんを卒業し子供になる節目のお祝い。
・袴着の儀: 男児は5歳になった年の11月15日に初めて袴をはいた。
・帯解きの儀: 女児は7歳から、紐付きの着物でなく本裁ちの着物を着て、丸帯を締めた。
袴着も帯解きも、社会に認められるけじめの儀式。
「人生儀礼」というお祝いごと。
日本人が昔から大事にしてきたお祝いや行事には、大きく分けて二種類あります。
1年の節目ごとの「年中行事」(五節句やお正月、お盆など)と、もう一つ、
人生の節目ごとの「人生儀礼」(お食い初め、成人式、お葬式など)です。
七五三は、季節の行事ではなく、人生儀礼にあたるんですね。
日本人には、面白いことに、生まれる前から亡くなったあとまで人生儀礼があります。
では具体的に見てみましょう。
●帯祝い …妊娠5ヶ月目の戌の日に、安産祈願をし腹帯を巻いてお祝いする。
●お七夜 …誕生7日目。命名の紙を書き、出生を祝う。
●お宮参り …生まれて1ヵ月後頃に神社にお参りする。
●お食い初め …生まれて100日目。食器を新調し、お祝い膳を食べさせる真似をする。
●初節句 …女子は初めての3月3日、男子は5月5日。
●初誕生 …初めての誕生日。一生餅を背負わせるなど地域ごとに習わしがある。
●七五三 …成長の節目として、一般的に男子は(3歳と)5歳、女子は3歳と7歳を祝う。
●十三参り …数え年で13歳になった子が4月13日(もしくは3月)にお参りする。
大人になるのに必要な知恵を授かり厄払いをする。
●成人式 …1月の第2月曜日。満20歳の男女に対し、市町村単位で祝賀会が開かれる。
昔でいう「元服」で、武家社会では男子は15歳、女子は13歳前後に大人の仲間入りをした。
●結納・結婚式・披露宴
●結婚記念日 …欧米から伝わった文化。日本では明治天皇が結婚25年目に銀婚式を祝ったのがきっかけ。50年目は金婚式。
●長寿 …家族親族で集まって祝う。60歳※数え61歳の還暦(かんれき)にはじまり、70歳の古稀(こき)、77歳の喜寿(きじゅ)、80歳の傘寿(さんじゅ)、88歳の米寿(べいじゅ)、90歳の卒寿(そつじゅ)、99歳の白寿(はくじゅ)など。
●法要・法事 …宗派や暮らし方によりさまざまな形があるが、一般的には位牌と遺影を祭り、
僧侶に読経してもらう。終了後に親族で会食を行う。臨終から7日目の初七日(しょなのか※最近はお葬式の日に済ますことが多い)、45日目の四十九日(しじゅうくにち)、1年後の命日に行う一周忌(いっしゅうき)、2年目の三回忌、6年目の七回忌、12年目の十三回忌…。地域や考え方によっていくらでも、百回忌まである。
こうして見てみると、人生儀礼は幼少期と老人になってからに集中しており、青年・壮年期にはほとんどないのですね……。
と、思ったら、ありました。「厄年」です。この言葉を聞いただけで、ブルっと震えてしまう、嫌~な節目ですけどね。
ところが、厄年=悪いもの、というのはどうやら誤解のようなんです。
厄年は、悪い意味だけじゃない。
一般的に、男性の25歳・42歳・61歳、女性の19歳・33歳・37歳が、人生の中で厄年に当たります。(陰陽道、時代や地域により決められた年齢も違う)
現代では、厄年=災いが起こりやすい年、ということで、もっぱら怖がったり忌み嫌ったりするものになっていますが、厄年には2つの意味合いがあります。
1つは一般認識の通り、精神的にも身体的にも変化・不調が出やすい年齢ということから難を呼びやすいという意味。
ですがもう一つ、地域社会や神事で大事な役目を任されるという、ポジティブな意味もあるんです。
中でも大厄とされる男性42歳と女性33歳は、昔の日本では、男性は家督を子に継ぎ、女性は子育てを終える年頃でした。家庭内での役割を終え、いよいよ地域社会や神事で役を果たすことができるという意味だったのです。
今はライフスタイルが多様化し、年齢でステージを区切ることはナンセンスだと思いますが
(19歳で母になり33歳で子育てが終わるのが普通だった時代って一体いつ…)、
若い頃とは違って確かに今、仕事でも地域社会でも学校でも、いろいろな役割がまわってきていませんか。
子育てをしながらで大変ですが、ここは「役どころ」と思って、できることから、楽しんで力を発揮していきたいですよね。
ちなみに、七五三や厄年は「数え年」で計算します。
誕生日に関係なく、生まれた年に1歳、翌年に2歳になり、新しい年に日本人全てが一緒に年をとるという考え方です。一般的には誕生日+1歳すればいいでしょう。

「母のお赤飯」を思い出にしてあげたい。
皆さんはお祝いがある時、自分でお赤飯を炊きますか?いまだに「お赤飯は母にお任せ」という人も、案外多いのではないでしょうか。
お赤飯は、平安中期の『枕草子』に登場する小豆粥が原型と言われており、江戸後期からは、庶民のハレの日のご馳走として定着していきます。なぜハレの日かは、赤が邪気を祓う魔除けの色だということや、小豆に薬効があることなどから。
一年間で、お赤飯の登場する行事は結構たくさんあります。
1月はお正月や成人の日、2月は節分、3月は桃の節句やお彼岸、4月はお花見、5月は端午の節句や母の日、6月は父の日、8月はお盆、9月は敬老の日やお彼岸、10月は菊の節句や運動会、11月が七五三、12月は大晦日と、季節の行事にはつきものなのがお赤飯です。
その作り方は、慣れてしまえば簡単。しかも蒸したては驚きの美味しさ。ぜひ一度、やってみませんか。
<忙しい人のためのお赤飯レシピ>
■材料
・もち米3合
・小豆(または ささげ)3分の1合
・「しと」(=小豆のゆで汁300cc + 塩小さじ1)
■下ごしらえ
もち米は、すばやく研ぎ洗い、2~3回水をかえて、ザルにあけておく。
小豆はまず「しぶきり」をする(=ひたひた水に入れて沸騰させ、その後弱火で5分ゆで、ザルにあける。)
1リットルの水で小豆を再度煮る。沸騰したら、弱火で25~30分。八分の固さにゆでる。
豆と煮汁を分けて冷ます。煮汁はお玉ですくっては落としを何度か繰り返すことで、きれいな紫の色を出す。
煮汁300ccと塩小さじ1を混ぜ、「しと」を作っておく。
残りの煮汁に洗ったもち米を約1時間浸しておく。
豆は乾燥しないように、冷めたらラップをしておく。
■作り方
ザルにあけ10分くらいおいたもち米と、煮て冷ました小豆を混ぜる。
蒸し器に、濡らして絞ったふきんを広げ、もち米と小豆を広げて入れる。15分強火で蒸す。
ふきんごと引き上げてボウルに中身を出し、「しと」をかけ回して、切るように混ぜる。
再度ふきんを敷き、米を戻して、強火で20分蒸す(15分くらい経ったところで硬さを確かめる)。
大皿や寿司桶にあけ、余分な蒸気を飛ばす。
お好みでごま塩などをかけて、めしあがれ!
お赤飯をぜひ家でつくれるようになって、季節の行事の他にも、家族の誕生日や、合格や役をもらった日、何か嬉しい事のあった日に、お祝いをしませんか。
(皆さん自分の思い出として覚えているのが、初潮を迎えたときではないでしょうか。当時は恥ずかしかったですよね笑)。
「なんで今日はお赤飯?」「○○のお祝いよ」なんて会話をしながら、家族で拍手したり抱負を述べたりニコニコわいわい食卓を囲めば、きっと子供たちの心に、ふわっと幸せで温かな「お祝いの思い出」として残っていくことでしょう。
(写真: 広田 行正)
(七五三イメージ写真:岐部淳一郎)
★広田千悦子さんに学ぶ「季節の習わしワークショップ」、次回は12月10日(土)、
神奈川県の秋谷(最寄り駅:逗子駅)にて行います。内容は、「お正月」。
こちらに、hahaha!読者の皆さんの中から、参加希望親子5組を募集します。→詳しくはこちらへ。
広田 千悦子 ひろたちえこ
日本の文化・歳時記研究家。季節の愉しみ方から縁起物まで、温かな絵と文で綴る作家であり、ワークショップ講師も数多く手掛ける。著書はロングセラーの『おうちで楽しむにほんの行事』、夫であり写真家の広田行正氏との共著『湘南ちゃぶ台ライフ』をはじめ、25冊を超える。最新刊は『鳩居堂の歳時記』。東京新聞のコラム「くらし歳時記」は連載10年目。公式HP