世界が気候変動の問題にいよいよ向き合い始めたから、ではなく。
SDGsという言葉が流行りだしたから、ではなく。
ましてセレブがエシカルファッションを嗜好しているから、ではなく。
私たちはきっと、直感的に求めています。
未来に、自然豊かな地球を残したいと。
身体や心にとって不自然なものは、もう要らないんだと。
*
それは、運命的な出会いでした。
私たちが、「ハハのためのサコッシュをつくりたい。」そう思ったとき。描いていた理想は、公園でも街でも使えて、大人ハハに似合う素敵なもの。
そう、機能と見た目のことばかり考えていました。
メンバーの1人がリンクをシェアし、一目で皆「好き!」と思いました。
それが「sonor(ソナー)」のアイテムでした。
すぐに連絡を取り、たまプラーザにあるアトリエに数人で伺いました。
そこで出会ったのが、園田明子さん。

プロフィール:1978年生まれ、2児のハハ。子育てを通じて「環境にやさしく未来につながるモノづくりをしたい」と考えるようになる。それまで得意だった編み物や裁縫でショールやスカート、小物などを作っていたが、あるとき国産のピッグスキンに出会い、環境に優しい製法と独特の風合いに魅せられる。ブランド「sonor(ソナー)」を立ち上げ、柔らかな質感を生かしたバッグやルームシューズを1点1点丁寧に手作りしている。sonor HP
いくつかのアイテムを手に取らせていただきました。
柔らかくて風合いのある革の質感、美しいニュアンスカラー、センスのいいデザインと丁寧な縫製に、感動する私たち。
しかし、園田さんのお話を聞いて、もっと心が動きます。
このピッグスキン(豚革)は、食肉用に屠殺された豚からいただく副産物です。つまり活用しなければ、ただ捨てられてしまうものなんですね。
市場に出回っている革製品は、金属や化学性薬品を使って大量になめし加工をしている「クロムなめし」が主流ですが、この革は、下町の小さな工場で、ミモザなど100%植物性のタンニンを使用した「タンニンなめし」を施しています。国産の天然皮革を使用し、厳しい環境基準もクリアした「日本エコレザー認定」のピッグスキンなんですよ。
あらゆるものが安く手に入る便利な世の中ですが、物づくりをする上で、環境への負荷や「本当にいいものって何か」を考えたとき、私なりにできることをしたいと思い、この工場にたどりつきました。
環境に配慮した素材を使って商品を作ることで、ささやかですが、タンナー(製革業者)さんの素晴らしい技術と、持続可能な素材、少しでもよい環境を、未来に繋いでいけたらいいなと思っています。
……震えました。
正直、日頃食べている豚肉の皮がどうなっているかなんて考えたことはなかったし、もっと言えば豚肉って、元々生きていた豚からいただいた肉だということすら、忘れてしまっていたかもしれない。豚肉=パックに入っている製品、以上。という発想。
子どものために必死で原材料欄の添加物を読み、できるだけ自然なものを、オーガニックの製品を、と日々いろいろ考えているのは確か。
でも今回、自分向けの革バッグを作るとなったとき、素材や作られ方について、背景や安全性、環境負荷などをそんなに気にしていなかったことに気付かされました。
同時に、品質やデザインだけでなく、素材も、作られ方も「本当にいいもの」なら、自信を持って全国のハハたちに届けたい!と心から思いました。
sonorという素晴らしい作り手さんとの、運命的!と思うほどの巡り合わせに、感動し感謝したのでした。
なめし革工場を見学。そこにあったリアル。
お話を伺ううちに、革のできる背景への興味が膨らみ、園田さんの案内で、墨田区にある革なめし工場を見学させていただきました。
そこで見たこと、聞いたお話は、いい歳になった大人の私たちが、まったく知らなかったことばかりでした。
*
いま、日本では毎月120万頭前後の豚(生後半年くらいが多い)が食肉用として出荷されます。うち9割は、その皮を革製品の原料として活用されているそうです。
そのほとんど、月100万枚近くは海外に輸出されます。高品質な日本の豚革は人気が高く、ヨーロッパの高級ブランドへも多く卸されているとか。国内向けは月約3万枚ほどで、その9割が墨田区でなめし加工され、ピッグスキン素材として市場に出るのだそうです。

屠殺場で剥がされた皮は、「原皮(げんぴ)屋」と呼ばれる業者へ渡り、腐敗を防ぐために塩漬けにされます。
朝の工場に原皮屋さんから届いた皮。ものすごく重そうということだけは伝わってきます。

こちらの工場(山口産業)では、加工の工程で環境に配慮しているだけでなく、仕入れ元の飼育環境にも目を向けています。そのこだわりの条件の1つが、「ストールフリー飼育」(妊娠豚を檻に拘束しない飼育)を行っている養豚場であること。
鶏の「フリーレンジ」(放し飼い)は徐々に関心が上がっていますが、豚のストールフリーはまだまだ。私たちも初めて知りました。
(※ストール飼育は、子豚を産むための母豚を1頭ずつ身動きの取れない狭い檻に100日以上という長期間拘束するやり方。豚は本能を奪われ、異常行動や病気を起こすそうです。諸各国が廃止の流れにある中、日本では88%がストール飼育を行っているとの報告も。詳しく知りたい方は、こちらの記事をはじめ検索してみてください。)

大きな丸い機械は、「太鼓」とか「ドラム」と呼んでいる、洗濯機のようなもの。塩漬けされ固まった原皮を1枚1枚はがして機械に入れ、水を入れて回します。もみくちゃにすることで、重みで皮をほぐし、塩を洗い流していきます。

こちらの工場生産される革は、(天然皮革であること/臭気が基準値以下であること/有害化学物質が基準値以下であること/発がん性染料を使用していないこと/染色摩擦堅牢度が基準値以上であること)以上6つの厳しい基準を全てクリアした「日本エコレザー認定」を受けています。
なめしにミモザの枝や幹を粉砕した植物タンニンを使うことで、一般的なクロム(塩基性硫酸クロム)を使った革製品と比べ、自然や人の体に有害な物質の排出リスクを最小限に抑えます。赤ちゃんや敏感肌の人でも安心して使え、また土に還すこともできる革なんだそうです。
また会社の取り組みとしても広い視野を持ち、「やさしい革」と称して、獣害対策で駆除されたイノシシや鹿の皮を革に加工して地域資源にする「MATAGIプロジェクト」など、さまざまなプロジェクトを行っています。

よく見ると原皮にも、色や質感の違いがあるようです。「人間と同じ。体質や性格が違うように個体差がある。怪我して傷ついてたりもするし、成長具合や、いた豚舎によっても違う」とのこと。

1つのドラムに入れるのは、皮150枚くらい。塩がザラザラと落ち、職人さんの額にも汗が吹き出します。

30分以上かけて原皮をドラムに移し終わりました。半日ほどかけて洗います。
このあと、薬品を入れて毛を溶かす脱毛をして、午後から別のドラムに移し、なめし→染色→干す作業となります。

タンナーのお二人。この道およそ15年。常に このお二人、または社長を入れた3人で作業をしています。夏は灼熱、冬は芯から凍える大変なお仕事です。

なめし加工、染色加工を終えると、絞り機で絞り、最後に工場の2階で干す工程へ。季節、天候、湿度によって加減を見るのが難しいそうです。

大量生産に向いた「クロムなめし」は、色乗りがよく品質に安定感があります。一方こちらの植物性「タンニンなめし」は、自然の染料なのでどうしても色ムラが出るし、安定させるのが難しいそう。とても高い技術があって、この美しい色が出されているのだと分かりました。

園田さんは語ります。「色ブレも、傷もありますし、同じ染料でもロットによって色ノリが違うこともあります。でも、人間も肌に違いがあるように、豚にだって個性も、季節による変化もあるのは当然。私のような革物作家としては、それは不都合でしかないのですが、環境に優しく、できるだけ自然のものを生かしたモノ作りって、本来こういうことなんだって思います。」

革の状態、もともとの色などを見極めて、適した色に染色をします。黒は特に色が入りにくく、染色にまる1日かかることもあるそうです。
たくさんの色に染められた在庫棚。デジタルのようにパキっとした色のものはなく、どれも私たち好みの、ニュアンスのある美しい発色でうっとりしてしまいました。
*
工場見学を終え、後日、園田さんが丁寧に縫ってくださった試作品が届きました。
手に取り眺めながら、こんな思考が頭の中に浮かんできました。
理由があるものを持ちたい。
これからの私たちの想い
「もっと便利に、もっと安く」。
私たちが子どもの頃から、こんな合言葉で社会は加速度的に発展してきました。
テクノロジーが発達し、便利なものが増え、圧倒的に効率化が進んだ世界。それは、手に入れたものと引き換えに「ものの裏側」や「いのちにつながる大事なこと」が見えにくくなっていった世界でもあります。
昔は駅員さんが切ってくれた切符は自動改札機に変わり、お風呂は自動的に沸き、食べ物の多くは加工して売られ、コンピュータが自分の好みまでわかってくれる時代。
メイドインどことは書かれていても、そのものが作られ手に届く過程に、一体誰がどこでどんな仕事をしているのかはなかなか見えません。
しかし私たちは、ハハになってからというもの、実はそんな「便利さ・簡単さ・安さ」の流れに、逆行するようなことばかり考えるようになりました。
値段やキャッチコピーに踊らされることなく、
よきものをよき形で手に入れ、大事に使いたい。
裏側にあるものをちゃんと理解したい。
たくさんはいらない。本物が欲しい。と。
それはなぜなのか。
子を宿し産み落とすという、商業主義とはまったく別次元の、究極の自然ともいうべき体験をしたからかもしれない。未来ある人間を育てている責任を日々感じているからかもしれない。きっと本能的な何かなのでしょう。
「いま、1つひとつの選択が、次の世界をつくっていく」。
私たち母親はそれを、直感的に知っています。
都市型の生活スタイルや、食品表示基準の問題など、この日本の環境では難しいことも多いし、慌ただしいリアルな生活の中ではなかなか徹底できるわけではないけれど、できれば、少しでもそうありたいと、私たちは願いながら生活しています。
これからも、すこしずつ。
私たちハハの描く理想の世界が、皆の日々の小さな選択によってたぐり寄せられることを信じて。
*
そんな未来への願いの、一つの形として選びたい、食肉の副産物から生まれた植物性タンニンなめしのピッグスキン。
このピッグスキンを使って完成した、sonorとのコラボ商品をぜひ、見てみてください。
→hahaサコッシュ
→ミニ財布&カードケース
もし気に入っていただけたら、どうぞあなたの持ち物に迎え入れて、職人さんのお仕事や、園田さんの仕上げなど、たくさんの工程と想いを感じてみてくださったら嬉しいです。
そしてお子さんには、「このバッグはね、お肉になった豚さんの皮をいただいて、ミモザの木でなめして柔らかくしたんだよ。」と話してあげてください。
皆さんのご注文をお待ちしています。
photo: Yumiko Mogami